【内容簡介】
本書は,著者が2008年以降発表した学史関係論文のうち,
「縄紋学の父」・山内清男(やまのうち・すがお)博士に関
わるものを選んで一書となしたものである。
先年刊行した『日本先史考古学史の基礎研究』(六一書房
2008年)や『日本先史考古学史講義』(六一書房 2014年)を
読んでくださった読者には,もう十分におわかりかと思うが,
「山内清男」という人物は,日本の先史考古学研究の基礎を
作り上げた偉大な学者である。それなのに,一般の人々には
ほとんど名前が知られていない。「考古学」という学問自体が
世間ではあまり馴染みのあるものでないことも理由の一つで
あるが,いわゆる商業出版社を通じて専門書や啓発書をあまり
多く世に出していないことが最大の理由であろう。
「売れる」書籍を刊行するためには,出版社側の要望に対して
柔軟に妥協しなければならないが,学問一筋であった博士は
そうした安易な妥協はほとんどしなかったのである。今,博士
が関わった数少ない一般向けの書籍を繙いてみると,とても
世間一般の読者が理解できるものとはなってはいない。一方,
専門研究者向けの機関誌に寄稿した論文を通観して感じるのは,
「わかる人がわかればそれでよい」という態度で執筆している
ことで,挿図が少なく,データの提示も極力省略している。
したがって,現在の若い学徒が博士の論文集(『山内清男・先史
考古学論文集』)を読んでも真意をとらえることは困難であると
思われる。著者は大学で考古学を組織的に学んだことはなく,
職業も考古学とは無縁な高校教師であった。学窓を出てから
今日まで,常に座右に置いて自分の考古学研究の拠り所とした
のが『山内清男・先史考古学論文集』であった。そこで学び
得た成果をまとめたのが上述の二つの書籍と本書である。
著者の山内考古
学研究の基本姿勢は,眼前にある考古学的課題を解決するために
山内博士の論文からその鍵を得ようとするものであり,原典を
分析して新しい発見をすることに重点を置いている。
通常の考古学史関係の書籍とはその点が多少異なっていること
を最初にお断りしておきたい。
山内博士の考古学は,それまでの日本先史考古学の成果の
上に立ちながら,生物分類学・比較解剖学・遺伝学・自然人類学
ならびに欧米の先史考古学や民族学の知識を駆使して構築した
ものである。あまりにも多岐にわたる教養を基盤としているので,
そのすべてを一人の研究者が理解するのはほとんど不可能である
といってよい。著者の研究成果は,「山内考古学」のほんの一面を
覗いただけのものであり,恥じ入る次第であるが,本書を通じて
「山内考古学」に関心を抱く若い研究者が少しでも生まれること
を願っている。(本書序文より)
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【目次】
序
1.山内清男の「縄紋」研究について
2.山内清男の「阿玉台式土器」について
3.佐藤達夫「土器型式の実態 五領ヶ台式と勝坂式の間 」に
おける阿玉台式土器について
山内清男の土器型式概念との比較も兼ねて
4.「縄紋時代の時期区分」と「縄紋土器型式の大別」の違い
「後期に下る加曾利E式」という用法は正しいのか?
5.芹沢長介と山内清男 縄紋土器研究をめぐって
6.山内清男と森本六爾 「石庖丁」の用途論をめぐって
7.和島誠一の精神 下総考古学研究会創立の学史的背景
8.塚田光の縄紋集落・共同体研究
在野考古学研究者による研究戦略
9.山内清男はW・Eニコルソン「北部ナイジェリア,ソコト地方の
焼き物師」(『MAN』29巻1929年3月号)をどう評価していたのか?
あとがき
人名索引