【内容簡介】
本書『琉球諸島の歴史人類学-信仰と習俗の民族誌』は、従来の
琉球沖縄研究史に一石を投じるものである。
従来の琉球沖縄研究では、特定の地域における特定の風習や文化
の研究が、単発的に行われるきらいがあった。また、琉球諸島全域
の視点より考察を試みた研究においても、地域差に言及するのみで、
その歴史的経緯、社会的背景に言及したものは多いとは言えない。
これは、歴史学や民俗学といった各学問領域が、各々の視点、関心
でのみ研究を行い、学際的な研究が積極的に行われてこなかったこ
との帰結である。しかし、例えばイレズミ習俗である針突などは、
元々、現存する習俗を扱う民俗学の研究対象であったが、現在は消
失しており、よって、同学問領域のみでの研究は難しく、複合的な
研究方法が求められる。ここから、本書では、琉球における土着と
外来の信仰、習俗を歴史人類学的見地より捉え、考究している。
具体的には、琉球沖縄社会に根づいており、かつ女性信仰と男系相
続、祖先祭祀といった観念がより顕著であるオナリ神信仰、御嶽、
門中制度、清明祭、媽祖信仰、針突の6種の起源や性質、機能、伝播、
変遷を考察する。これにより、各々が複雑に絡み合う琉球社会を巨
視的かつ重層的に把握でき、より実態に迫ることができる。
現在、琉球諸島では固有の言語や風習、文化の復興を目指す、ア
イデンティティ再興の動きが見られる。ここから、本書において琉
球の信仰や風習を考察することは、独自の風習、文化を見直す潮流
と軌を一にし、また何らかの視点や視座を提供すると考えられる。
【目次】
発刊にあたって
序 章
一 琉球諸島概観
二 先行研究
三 本書の課題と構成
四 研究方法
第一章 琉球文化圏におけるオナリ神信仰の研究―その実態および
実例
はじめに
一 古謡におけるオナリ神
二 オナリ神信仰と女性神役
おわりに
第二章 琉球諸島における御嶽の研究 その機能と動態
はじめに
一 古文献における「御嶽」
二 御嶽を構成する諸要素 環境・祭祀者・性質
三
御嶽の変容 近現代期における御嶽
おわりに
第三章 琉球文化圏における門中制度の基礎的研究
はじめに
一 門中制度の研究史
二 門中制度の歴史
三 門中制度とは何か 門中の基礎的概念およびその実態
四 門中制度における禁忌行為や観念
おわりに
第四章 琉球諸島における清明祭および中国・清明節の比較研究
―清明期祖先祭祀の予備的考察
はじめに
一 中国・清明節の概観
二 古文献・史料に見る琉球の清明(祭)
三 琉球の清明祭
第五章 近現代琉球諸島における媽祖信仰の変容に関する一考察
はじめに
一 媽祖信仰の由来およびその輪郭 132
二 琉球の媽祖信仰受容と浸透
三 現代沖縄における対媽祖意識
四 近代社格制度と媽祖信仰
五 欧米新宗教の伝来と媽祖信仰
おわりに
第六章 琉球諸島におけるイレズミ習俗・針突の研究
はじめに
一 針突の歴史と研究史
二 近代以前の針突―文献史(資)料から―
三 近代における針突研究史
―「琉球処分」から第二次世界大戦まで―
四 近代における針突研究史―第二次世界大戦後から現代まで―
五 針突をめぐる社会的背景―イレズミ禁止令と教育政策―
おわりに
[コラム] 針突の起源を考える
―アジアにおける文化伝播の視点から―
主要参考文献
初出一覧
あとがき