【内容簡介】
半世紀にわたる著者の考古学研究から著された、モノに
則した考古学本来の手法による30余編の論考を選んで収録。
Ⅰ遺物論には縄文時代の石鏃製作やナイフ形石器の型式設定、
縄文前期の抉入尖頭器の認識とその意義から、石器文様論の
確立に至る新たな石器研究を提起した。また博物館収蔵の国
外資料についての分析と考察も行った。
Ⅱ遺跡・遺構論では発掘時の詳細な原位置観察に基づいた、
神子柴遺跡をはじめとするデポについての一連の論考、墓や
居住、石器製作の実態解明を具体的に提示した。
Ⅲ研究史では現代にいたる石器実測図の変遷を江戸期の石器
図にまで遡って、その意義と今後の方向性を定めた。また大
森貝墟碑建設に関する新たな発見史料を紹介するとともに、
モースの大森貝塚の位置に関して再考した。丹念な資料探査
で100年ぶりに見つかった鳴鹿山鹿の石器についても考察した。
Ⅳ時代論には日本先史時代への自己の年代観を表明するとと
もに、関連科学主導へと変質する考古学の現状に警鐘を鳴ら
した。最後に著者が属した発掘者談話会での日常的な随感も
収録した。いずれも著者独自の視点から生み出された「モノ
を究めたい」という多彩な論考の数々を網羅し、考古学本来
の分析の醍醐味や意義をあらためて喚起した。
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【目次】
岡本東三 田中英司さんのこと 山溜穿石
1
遺物論
縄文時代における剥片石器の製作について
武蔵野台地Ⅱb期前半の石器群と砂川期の設定について
折断と縄文時代の剥片石器製作
砂川型式期石器群の研究
埼玉の石器と北海道の石器
小岩井渡場遺跡出土の抉入尖頭器
オーストラリア・アボリジニのガラス製槍先
抉入意匠の石器文化
土器のような石器
アドミラルティ諸島のスーベニア
抉入尖頭器の構成要素
石器文様論
2
遺跡・遺構論
石斧の出土状態と着柄
神子柴遺跡におけるデポの認識
住居・墓・アトリエ・デポ 土肥
孝氏の指摘に対して
木葉形尖頭器のデポ 富士見市羽沢遺跡
収蔵・複合デポ 神子柴遺跡
縄文草創期の墓 器物の配置と撒布
もうひとつの製作工程 泉福寺洞穴の細石器
日本先史時代のデポ
状態の原位置論
斧のある場所
デポの視点
デポと交易
縄文時代における黒曜石のデポ
デポをめぐる問題
摩滅痕をもつ尖頭器のデポ 西大宮バイパスNo.4遺跡の石器群
3
研究史
観察と記録 石器実測図の生成
大森貝墟碑の建設 佐々木忠次郎から稲村坦元宛て書簡より
新たに発見された鳴鹿山鹿の「献納石鏃」
4
時代論
先土器時代研究の動向
岩宿の先土器・無土器・旧石器
分かりやすさの代償
斧の意義
日本旧石器時代の実態
-旧石器時代を考える-
『発掘者』の綴りより
原点にもどれるのか?/石器の一期一会/「原位置」をみつめて
/不要不急
略歴・職歴・研究年譜
描き手と書き手
あとがきに代えて