【内容】(本書より)
われわれ現代人の日々の生活において、動物・植物・鉱物と
いったいわゆる自然物との関係はきわめて希薄になっている。
しかし、新石器時代の中国においては、食料として、道具の材
料として、あるいは建材として、自然物は日常に存在していた。
生活文化の大部分を自然物が占めていたと言い換えてもよい。
考古学的遺跡から出土する遺物のうち、何らかの形で人の手
が加わったものを人工遺物、加わっていないものを自然遺物と
考古学者は呼びならわしている。しかし、その区別は便宜的な
ものにしかすぎない。人工遺物であっても、その素材は粘土
(土器)、石塊(石器)、樹木(木器)、動物骨(骨器)といった自然
物であることに変わりはない。
そこに、狭義の考古学者だけではなく、人類学、動・植物学、
遺伝学、分析化学、地球化学などの専門家が研究に参画する必
然性が生まれる。
本書は、そうした研究者グループにより進められている日中
共同研究プロジェクトの研究成果の一部を収めたものである。
「Ⅰ遺物の考古学的研究」「Ⅱ
動植物遺体と動植物利用に関
する研究」「Ⅲ
出土遺物の考古科学的研究」の3部構成とした
が、この区分もまた便宜的なものである。いわゆる文系の学問
と考えられている考古学であるが、実は自然科学者との協働な
くしてはもはや成り立たなくなっている。逆に言えば、自然科
学との学際的連携によって考古学は新たな飛躍のチャンスを手
に入れた。伝統的な学問としての「中国学」の世界に新風を吹
き込もうとする研究者たちの奮闘する姿がここにある。
【目 次】
巻頭言
中村慎一 ⅰ
例 言
ⅱ
Ⅰ 遺物の考古学的研究
1.田螺山遺跡出土石器とその使用痕分析
上條信彦・原田幹・孫国平
1
2.跨湖橋遺跡出土木器
村上由美子・齋藤哲・中村慎一・蒋楽平
21
3.田螺山出土木器(2) 浦蓉子・川崎雄一郎・鶴来航介・
西原和代・村上由美子・桃井宏和・
山下優介・王永磊・孫国平
41
4.江家山遺跡出土木器
村上由美子・桃井宏和・中村慎一・楼航
79
Ⅱ 動・植物遺体と利用に関する研究
1.現代カザフスタンにおけるキビとアワ
竹井恵美子
93
2.銭塘江流域新石器時代前半の環境と生業の実態
金原正明・金原正子・113
杉山真二・金原美奈子・劉斌・孫国平・蒋楽平・
趙曄・王寧遠・閻凱凱・王永磊・陳明輝
3.良渚古城遺跡群・鍾家港南段地点および卞家山地点出土の鳥類
遺体
199
江田真毅・宋妹・菊地大樹・劉斌
4.中国の新石器時代の遺跡から出土するカメ類の遺骸
平山廉・孫国平・王永磊
205
5.中国浙江省の考古遺跡から出土したサルの化石
―東アジアにおけるマカクザルの分布域の変化に関する考察―
浅見真生・伊藤毅・高井正成・孫国平・王永磊
215
Ⅲ 遺物の考古科学的研究
1.中国産水銀朱を用いた古代日本の遺跡の時代変遷と地域性
235
神谷嘉美・高橋和也・南武志
2.田螺山遺跡出土のチャノキとみられる遺物のDNA分析にむけて
熊谷真彦・水野文月・王瀝 251